新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

『ヤマノススメ』と飯能

ヤマノススメ』にゆかりのある場所の写真をいくつか。数年前に撮影したものもあるので、今とは多少風景が変わってるかもしれない。

飯能銀座商店街。あおいのバイト先もこの近くにある。
飯能河原の近くにある小川。高校からの帰り道でよく登場する場所。
天覧山山頂からの景色。
ドレミファ橋。2ndシーズンの7話で泳ぎに行ったけど増水してて結局泳げなかった場所。
飯能河原。割岩橋の上から撮影。
飯能河原のすぐ近くにある階段。3rdシーズン第10話で、ひなたが一人寂しそうに座っていた階段。

飯能に行って毎回思うのは、街と自然との距離が非常に近いということ。駅や商店街があるエリアから1時間も歩けば飯能河原や天覧山山頂まで見て回れる。関東平野が終わり、秩父の山岳地帯が始まる境目の町。

野球に関する「ですが」問題についての考察

早押しクイズで「日本プロ野球界において、平成最初の完全試合達成者は誰?」という問題があったとしたら、答えは槙原寛己(1994年5月18日に達成)になる。

ところで、早押しクイズにおいては、「日本で一番高い山は富士山ですが、日本で二番目に高い山は何?」(答え:北岳)みたいに、文章と文章を「ですが」で繋げる引っかけ問題が出される場合がある。なので、「平成最初の完全試合達成者は槙原寛己ですが、」に続く問題があったとしたら、どんな解答のパターンがあるか考えてみたい。

①「日本プロ野球界において、平成最初の完全試合達成者は槙原寛己ですが、令和最初完全試合達成者は誰?」

これが一番可能性の高い問題だろう。槙原寛己は平成唯一の完全試合達成者だが、そこでわざわざ「平成最初の」という言い回しをしているということは、その後に「平成最初」と対応する言葉が来る可能性が高い。つまり「令和最初」の完全試合が答えになるなと推測できる。答えはもちろん佐々木朗希となる。

②「日本プロ野球界において、平成最初の完全試合達成者は槙原寛己ですが、昭和最初完全試合達成者は誰?」 

佐々木朗希では難易度が低すぎるので、「令和最初」ではなく「昭和最初」が聞かれる可能性もある。日本で最初に完全試合がなされたのは1950年(昭和25年)6月28日のことであり、答えは藤本英雄となる。令和最初と比べると難易度は格段に上がるが、ある程度の野球ファンあるいはクイズプレイヤーなら知っている知識だろう。

③「日本プロ野球界において、平成最初の完全試合達成者は槙原寛己ですが、昭和最後完全試合達成者は誰?」

例えば「20世紀最後の日本人ノーベル賞受賞者白川英樹ですが、21世紀最初の日本人ノーベル賞受賞者は誰?」(答え:野依良治)のように、「ある時代の最後」と「その次の時代の最初」が対になってるクイズも有り得る。この場合の答えは1978年8月31日に達成した今井雄太郎ということになる。相当難しい問題だが、槙原寛己の一つ前の完全試合ということで野球ファンあるいはクイズプレイヤーなら知っていてもおかしくはない。

④「日本プロ野球界において、平成最初の完全試合達成者は槙原寛己ですが、平成最後完全試合達成者は誰?」 

平成で完全試合を達成したのは槙原寛己だけなので、当然、「平成最後」の完全試合達成者も槙原寛己である。答えが問題文中ですでに読まれているという引っかけ問題。だが、例えば「都道府県を五十音順に並べた時、一番最初にくるのは愛知県ですが、一番最後にくるのはどこ?」(答え:和歌山県)のように、何かの「最初」と「最後」が対になってる問題はよくある形式だと言えよう。

⑤「日本プロ野球界において、平成最初の完全試合達成者は槙原寛己ですが、平成最初の三冠王は誰?

何らかの完全試合達成者を聞いてくると思わせておいてからの変則的なパターン。だが、完全試合三冠王という、野球において大偉業とされるもの2つを対比させているので、問題文として不自然ではない。この問題の答えは、平成唯一の三冠王である松中信彦となる。

ここまでのケースをまとめて、早押しクイズで出題された時にどこでボタンを押すべきか見てみよう。

一応冒頭で「日本プロ野球界において」と言っているのでメジャーリーグや他のスポーツについては考えなくてよいということが分かる。この状況で「ですが」の後に「令」が来たら、これはもう佐々木朗希だろう。

一方、「ですが」の後に「昭」が来た場合は、選択肢がまだ2つあるので、「最初」か「最後」かをきちんと聞き取る必要がある。

問題なのは「ですが」の後に「平」が来た場合である。「平」と聞こえてすぐに「どうせ引っかけ問題で答えは槙原寛己だろ」と思って押したら、実は三冠王みたいなトリッキーな問題の可能性もある。慎重に問題を聞いて答えるようにしたい。

以下は補足だが、問題文が「日本プロ野球界において、平成最後完全試合達成者は槙原寛己ですが、」に変わった場合を考えてみたい。要するに「平成最初」が「平成最後」に変わっただけである。

この場合、「ですが」の前後の組み合わせとして「平成最後/令和最後」が来ることは有り得ない。令和時代はまだ終わっていないので、令和最後の完全試合が誰なのかはまだ分からないからだ。だが、「平成最後/昭和最後」という組み合わせの問題文で今井雄太郎が答えという可能性はまだ残されている。

また、「平成最後/昭和最初」という組み合わせも有り得ないだろう。「ある時代の最後」と「その一つ前の時代の最初」では、問題文が対になっていない。日本語として不自然ではないが、このような問題が出されることは普通考えられない。一方で、「ある時代の最後」と「その一つ後の時代の最初」であれば、対の関係は成立する。よって、「平成最後/令和最初」と聞かれて、答えが佐々木朗希というパターンなら十分あり得る。

「平成最後/平成最初」については、上で見た④と同じ構造の引っかけ問題なので、答えは槙原寛己である。「平成最後/平成最後」についても、構造は⑤と同じなので、「これは完全試合とは別のことが答えになってるな」という推測が立つので、答えは松中信彦などが考えられる。

以上までの結果をまとめてみよう。問題文の「ですが」の前/後が、

  • 平成最初/令和最初 ⇒佐々木朗希
  • 平成最初/令和最後 ⇒※この組み合わせは有り得ない
  • 平成最初/昭和最初 ⇒藤本英雄
  • 平成最初/昭和最後 ⇒今井雄太郎
  • 平成最初/平成最初 ⇒松中信彦など
  • 平成最初/平成最後 ⇒槙原寛己
  • 平成最後/令和最初 ⇒佐々木朗希
  • 平成最後/令和最後 ⇒※この組み合わせは有り得ない
  • 平成最後/昭和最初 ⇒※この組み合わせは有り得ない
  • 平成最後/昭和最後 ⇒今井雄太郎
  • 平成最後/平成最初 ⇒槙原寛己
  • 平成最後/平成最後 ⇒松中信彦など

よって、「ですが」の後が令和だった場合は、答えになり得るのは佐々木朗希のみである。

「ですが」の後が昭和の場合は、答えは藤本英雄今井雄太郎の二択。だが、「ですが」の前が「平成最後」だった場合は、藤本英雄が聞かれることは無いので、答えは今井雄太郎の一択となる。

「ですが」の後が平成の場合は、槙原寛己松中信彦などの変則的な答えが来る。

『映画 ゆるキャン△』と地域振興

『映画 ゆるキャン△』見てきた。

舞台は原作・TVアニメの数年後、名古屋の出版社で働いているリンのもとに、山梨県で地域振興の仕事をしている千明が訪ねてくる。リンの何気ない発言をきっかけに、富士川町高下地区にある使われなくなった施設をキャンプ場に改造する計画がスタートする。

キャンプ場のコンセプトは「再生」。なでしこ達5人は、慣れない肉体労働に悪戦苦闘しながらも、その場にある建物や廃材を有効活用しながら、キャンプ場作りを進めていく。

劇場版が原作・TVアニメと異なるのは、「衰退していく地方」と「町おこし・地域振興」という部分を全面的に押し出してきたことだろう。高齢化が進む農村、放棄された施設、廃校になる小学校。TV版に出てきたキャンプ場のような明るく暖かい場所だけでなく、どこか物寂しい地方の「現実」が描かれている。

そもそも、日本の地方都市や田舎を描いた作品は数多くあるが、地方の現実的な問題がクローズアップされることはかなり少ない。アニメに描かれるのは、ある意味理想化された架空の「田舎」である。

そのような中で、あえて地方のリアルな姿を描いている異色な作品が、『ゆるキャン△』と同じく山梨県を舞台とする『スーパーカブ』ではなかったか。そこでは、様々な公共施設や交通機関が廃止となって、原付が無ければまともな生活も送れない地方都市の現実が描かれる。

関連記事:『スーパーカブ』が描く田舎の風景 - 新・怖いくらいに青い空

一方、町おこしを中心テーマとした作品として『サクラクエスト』が挙げられる。5人の主要キャラが市役所や地元商店会などと交渉しながら様々な地域振興策を進めて行く構図は、まさに今回の劇場版『ゆるキャン△』と同じである。

関連記事:『サクラクエスト』総評 - 新・怖いくらいに青い空

そこには高校時代のキャンプのような、ユルくまったりした雰囲気は無い。キャンプ場作りはもちろん本人の楽しみという面もあるが、あくまでも地域振興であり、「仕事」なのだ。綿密な計画を立て、上司を説得しながら仕事を進めなければならないという点で、学生時代のキャンプとは決定的に異なるのである。

これはまさにアニメ製作と同じではないかと思う。本作に携わった製作スタッフの多くも、なでしこやリンが初めてキャンプをした時のように、子ども時代にアニメに夢中になった瞬間があったに違いない。そして、アニメ製作を本職とするようになり、そこで初めて、ただ面白いだけではない、アニメ製作現場の苦悩を目の当たりにしたことだろう。これはあくまでも私の想像だが、本作のスタッフは、彼ら自身と、キャンプ場を作るなでしこ達とを重ね合わせて見ているのかもしれない。

さて、県の協力も取り付けてキャンプ場作りに邁進するなでしこ達だったが、敷地内で縄文土器が見つかり、遺跡発掘のため計画は白紙に戻ってしまう。その後、山奥の温泉でしみじみと語り合うなでしことリン。大人になって、使えるお金も増えて、高校生の時よりもやりたい事ができるようになったけど、それでも全てが上手くいくわけではないという現実。大きな社会の中で、彼女たちのできることはあまりに小さい。

それでも、千明は諦めずに計画を再検討し上司に掛け合う。そして計画は、縄文遺跡の展示と学習の場を兼ね備えた計画案へと変更され、キャンプ場建設は再開される。

ここで縄文遺跡を出してきたことで、物語はより一層、現実の世界とリンクしていく。というのも、地域にある遺跡の価値をどのように伝えていくかという問題は、まさに今、世界遺産「北海道・北東北の縄文遺跡群」のある地域が直面している課題に他ならないからだ。

関連記事:『縄文と世界遺産』感想 - 新・怖いくらいに青い空

これらの縄文遺跡は、観光客向けに公園として整備され、資料館などが併設されている。だがそれは同時に、その地域の人々が遺跡の価値を正しく理解し、後世に伝えていくための教育の場でもあるのだ。地域の子ども達がその地域の歴史を学び、その地域に愛着と誇りを持って生きられること。それこそが、観光やインバウンドとは異なる、長期的で効果的な地域振興となるのだ。

地域振興とは、その地域に元々あるもの、その地域の歴史を活かすということ。縄文時代から連綿と続くその歴史こそが、その地域にとって何よりも価値のあるものなのだ。そして、地域振興は観光客のためだけでなく、地域の人のためのものでなければならない。本作はそうした強いメッセージ性が感じられる。

原作とTVアニメ版からあえて雰囲気とコンセプトをがらりと変えたチャレンジングな作品。賛否両論はあるだろうが、田舎を描くアニメとして避けては通れない部分を描いたとも言えるだろう。また、少しメタ的な見方をすれば、この映画自体が山梨の地域振興にも大きく貢献する作品と言えるだろう。

2022年上半期に見ていたアニメ

SHAMAN KING

最終回が終わった後、記事を書こうとしたけどやめた。原作で見た最終回をアニメでまた見れる感動だけで、十分だと思ったから。

この作品は一貫して完全な悪人など存在しないのだということを描く。あのハオですら、他人の心を読めるという力によって闇に落ちていったに過ぎない。葉も蓮もホロホロも、それぞれに心に闇を抱え、一歩間違えればハオのように人を恨み滅ぼそうとしていたかもしれないのだ。

だからこそ、どんな悪人でも救われる道がある。それは、マルコが言っていたように、愛の力によってである。そして、マタムネが恐山で葉に語ったように、愛とは、信じ続けるということ。オパチョをはじめとするハオ一味のシャーマンたち、葉とその仲間、彼らからの巨大な愛の力がハオを救い出したのだ。それは漫画の中だけの理想論かもしれないし、現実の世界は葉たちの理想からは真逆の方向に突き進んでいるが、それでも人類が忘れてはいけない究極の理想がそこにはある。

スローループ

まんがタイムきらら系の作品としては珍しく、主人公2人や恋ちゃんの両親がじゃんじゃんストーリーに関与してくる作品だった。また、回を追うごとに一花・二葉の姉妹やら楓さん(CVが日笠陽子の人)やら、周りの大人や子どもも登場してきて、釣りを通して主人公・海凪ひよりの世界が広がっていくような作品だったと思う。

特に二葉ちゃんは主人公より年下の子という『ヤマノススメ』におけるここなちゃんポジションのキャラクターだったけど、小学生特有の悩みも抱えているなど、他作品では見られない要素もあり良かった。この子は将来、釣りサーの姫になりそう。

そして本作を見る楽しみの半分は恋ちゃんにあったと言っても過言ではない。基本クールなダウナー系キャラでありながらも、両親と接する時には別の一面が見えたり、幼馴染のひよりちゃんの事をいつも見守り甲斐甲斐しく世話を焼くなど、こちらも他作品に無い魅力を持ったキャラクターだと思う。ポジション的には『放課後ていぼう日誌』の黒岩部長と夏海を足し合わせたような立ち位置だと思う。

SPY×FAMILY

アーニャの可愛さでかなり強引に話を進めている作品のように感じる。例えば、面接試験(4話)、遊園地(5話)、ダミアンとの仲直り(7話)、ドッジボール(10話)など、落ち着いて考えてみれば各ストーリーはどれも単調で意外性が無いのだが、それをアーニャのリアクションを駆使して良作にまで持って行っている。

そして、言うまでもないが、アーニャ役の種﨑敦美さんの名演あっての本作だと思う。アーニャの出てるシーンはここ数年で1番くらいに笑いながら観ていた気がする。人は、あまりにも可愛いものを見ると笑いが込み上げてくるのだと分かった。

まちカドまぞく 2丁目

この作品も『SPY×FAMILY』と同じくストーリーは有って無いようなものだと思うし、ぶっちゃけ細かい設定とかもう覚えていないが、それでも見続けられる不思議な面白さがある。まるで気づかないうちにぬるま湯に浸かっているかのような、何も考えずとも見れる安心感がある。

第一期の時は小原好美さん演じるシャミ子のキャラクターで突っ走った感じだったが、2期途中から急に百合的パワーが開花。同棲、記念日設定、お腹まさぐりともうやりたい放題となり、作品自体もそこから一気にブーストがかかったように思う。

平家物語

以前記事を書いたのでそちらをご覧ください。
アニメ『平家物語』感想

明日ちゃんのセーラー服

こちらも以前記事書いてるのでご覧ください。twitterでも何度も言ってるが、自分の激推しは何と言っても蛇森さんなので。
『明日ちゃんのセーラー服』で好きなキャラクターベスト7

かぐや様は告らせたい-ウルトラロマンティック-

このアニメ第3期のエピソードは、原作で言えばちょうど、各キャラクター間の関係性が上手く構築され、その中で繰り広げられるギャグが最も洗練されていた時期にあたる。なので、そのアニメ化ということで個人的にハードルを上げ過ぎたきらいがある。欲を言えば全て原作通りに作ってくれれば間違いなしなのだが、様々な制約がある中でそれは不可能であるし、かといってアニメ特有の良さが付与されていたかと言えば、それが無かったとは言わないがそこまで多かったわけではないので、物足りないという気持ちになった。

ただ、3期のMVPは間違いなく四条眞妃ちゃんだと思う。原作でも登場する回は必ず神回であり、よくもなあこんな凄いキャラ生み出したものだと思った。

ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 第2期

第2期は一貫してプロとアマチュアの対比みたいなものを描いてるんだなと思う。ランジュ・ミア・栞子の掲げる「完璧なパフォーマンスをする」「依頼通りの音楽を作る」「自分の適性に合った仕事をする」はプロとしては完璧な心構えだけど、そこに自分のやりたい事は無くない?っていう疑問を提示していく物語。アマチュアのアイドル活動であるスクールアイドルはもっと自由な発想で、自分のやりたい事を追及していい場所だという考え方が根底にはある。

だが、最終回近くになると、良くも悪くもそういった対比構造は薄まり、物語の焦点は高咲侑のほうに移っていった。最初は歩夢や他のスクールアイドルを応援する立場だった侑が、次第に自分のやりたいことを見つけ自らも表現者となっていくという展開で、『さくら荘』や『冴えカノ』から連なるクリエイター系ラブコメの系譜を踏襲しているように感じる。

どの話も決して悪くはなかったが、第1期の9話や11話のような突出して面白いと思える回は無かった。各回に流れる楽曲とPVも、全体的に1期の方が良かった。

処刑少女の生きる道

青と黄色を基調とした神官服に時折見せる厳しい表情と、メノウさんは実にアニメ映えするキャラ造形だと思う。また、メノウの後輩であるモモの強烈なインパクトも素晴らしく、久しぶりに金元さんの当たり役を見たなぁという気持ちになる。

原作でいうところの2巻までのアニメ化ということで、もう少しテンポよくやってほしかった気もするが、そこは原作ラノベの販促も兼ねたアニメ化ということなのだろう。

くノ一ツバキの胸の内

第6話から登場してきた転入生リンドウがあまりにも可愛すぎませんかね? 小原好美さんの演技も相まって圧倒的な可愛さになっていて、正直、他の子が霞むレベルだと思う。そりゃ、ヒナギクさんも泣くわ。「各班の個性豊かな面々を見て楽しむのがこの作品本来の楽しみ方だよなあ」という気持ちと、「もう毎回リンドウ主人公で良くね?」という気持ちの板挟み状態。このキャラクターをポンと出してこれるのが山本崇一朗のすごいところだと思う。

からかい上手の高木さん3

「夢」を題材としたエキセントリックな構成の第1話、前半を丸々サイレントにした第2話と、構成に工夫が見られて良かったが、それ以降は良くも悪くも小さくまとまった普段通りの『高木さん』という感じだった。あと、もう少しミナちゃんの出番増やしてほしいと感じずにはいられない。

クレヨンしんちゃん映画全部見た(2008~2022)

前回の記事では、第1作目から第15作目までのクレヨンしんちゃん映画について見てきた。

kyuusyuuzinn.hatenablog.com

本記事では、第16作目『ちょー嵐を呼ぶ 金矛の勇者』から、今年公開されたばかりの第30作目『もののけニンジャ珍風伝』までを解説していこう。

クレヨンしんちゃん ちょー嵐を呼ぶ 金矛の勇者

映画クレヨンしんちゃん ちょー嵐を呼ぶ 金矛の勇者
【あらすじ】暗黒世界の帝王アセ・ダク・ダークは「金の矛」と「銀の盾」を使って世界征服を企てるが、マタタビはそれを阻止するために矛と盾を人間界へと送る。しんのすけは偶然「金の矛」に選ばれた勇者となり、マタタビの娘マタタミと共に、襲い掛かってくるダークの刺客と戦うこととなる。

2008年公開。12年ぶりに本郷みつる氏が監督を務めた。ファンタジックな世界観や奇怪な敵キャラクターが特徴的で、『アクション仮面VSハイグレ魔王』や『ヘンダーランドの大冒険』など初期クレしん映画の雰囲気を感じられる。ヒロインは堀江由衣声のボクっ娘・マタで、その中性的で可愛らしい見た目はしんのすけのみならず、現実世界の「大きいお友達」をも虜にする。

しかし、ストーリー設定上しんのすけが一人で戦うシーンが多くなるため、アクション描写は単調で盛り上がりに欠ける。不必要なカットや、不自然な長い台詞がところどころで見られ、そのせいで映画のテンポは悪く退屈な印象を与える。

クレヨンしんちゃん オタケベ!カスカベ野生王国

映画クレヨンしんちゃん オタケベ!カスカベ野生王国
【あらすじ】しんのすけが拾ってきたドリンクを飲んだひろしとみさえは動物の姿に変身してしまい、さらには過激な環境テロリスト集団・SKBEに誘拐されてしまう。SKEBのリーダー・四膳守は、全人類を動物にすることで環境破壊を阻止しようとする「人類動物化計画」を進めようとしていた。

2009年公開。本作と次作『超時空!嵐を呼ぶオラの花嫁』がしぎのあきら監督作品。本作は、環境問題とエコテロリスズムという題材により、行き過ぎた正義感に警鐘を鳴らすとともに、地球を守るといった壮大な意思の根底にも必ず個人的な家族愛があることを描く。また、次作は大企業が支配するディストピアを描くなど、両作品とも現実世界の問題とリンクしたテーマを選んでいるように見える。

クレヨンしんちゃん 超時空!嵐を呼ぶオラの花嫁

映画クレヨンしんちゃん 超時空! 嵐を呼ぶオラの花嫁
【あらすじ】ある日突然、しんのすけの未来の婚約者だと名乗る金有タミコがやってきて、とある目的のためしんのすけ達を未来へと連れていく。未来の日本は金有電機という大企業に支配され、一般市民は貧しい生活を強いられていた。未来のしんのすけは明るい世界を取り戻すために活動していたが、金有電機トップ・金有増蔵に捕えられてしまう。増蔵は自社の利益の為に、娘であるタミコと、金有電機でエリート社員となっていた風間トオルを結婚させようと画策する。

大人になったしんのすけ達が活躍する異色作。未来の世界は、隕石の衝突によって日光が遮られ、電力を独占支配する金有電機によって支配されているという設定。徹底的に利益を追求しようとする増蔵によって、ひろしの勤める会社は倒産に追い込まれ、物価は上昇し、貧富の格差も広がり、野原家がある付近は荒廃している様子が見て取れる。ディストピア小説のような細かい描写によって、行き過ぎた新自由主義的の先にある日本の姿を見ているような感覚に陥る。

最後は未来の野原一家・かすかべ防衛隊らが協力して敵を倒し、しんのすけが持つとされる謎の力・おバカパワーによって街に日光が戻る。作中でタミコは、しんのすけの魅力について「一緒に居て楽しい」ことだと語っており、暗い世の中にあっても常に明るくマイペースな性格が、お金や社会的地位などでは測れないしんのすけの長所として描かれる。ドラえもん映画で言うところの『のび太結婚前夜*1のような構造を持つ作品だと言えるだろう。

クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ黄金のスパイ大作戦

映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ黄金のスパイ大作戦
【あらすじ】スパイの少女・レモンは、自分はアクション仮面の部下だと偽って、しんのすけに仕事を手伝ってほしいと頼みこむ。まんまと騙されたしんのすけは、とある研究所から、食べるとオナラが止まらなくなる物質「メガヘガデルII」を盗み出すことに成功する。レモンの雇い主であるスカシペスタン共和国は、メガヘガデルIIを利用して兵器を作り出そうとしていた。

メガヘガデルIIを保管してある部屋を開けるためにはヘガデル博士の体型データが必須であるため、ヘガデル博士と同じ体型を持つしんのすけが必要だった、という設定。同様の理由でしんのすけが拉致された『ブリブリ王国の秘宝』のセルフオマージュと言えなくもない。かすかべ防衛隊や野原一家の見せ場は少なく、代わりに、「子どもはたまには親にワガママを言うことがあってもいい」というテーマを軸にして、ゲストヒロインであるレモンの成長を描くという側面が強い。

クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ!オラと宇宙のプリンセス

映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ! オラと宇宙のプリンセス
【あらすじ】突如現れた宇宙人によってヒマワリ星に連れていかれた野原一家だったが、そこで何故かひまわりは熱烈な歓迎を受ける。ヒマワリ星人によると、現在、太陽系の平和を保つために必要なヒマ・マターが枯渇しつつあり、それを防ぐためにはひまわりがヒマワリ星で暮らすことが必要だという。野原一家は、家族の絆か、地球の未来かという究極の二択を迫られる。

記念すべき第20作目のクレしん映画ということもあり、ところどころで回想などが入れられて野原一家の絆が強調されているが、脚本はかなり支離滅裂で、意味不明な演出が繰り返される。クライマックスでも、天球儀を模した謎の部屋で野原一家が奮闘すると、何故か世界にヒマ・マターが満ちてあっさり問題解決になるなど、ご都合主義で視聴者置いてけぼりな印象が強い。

クレヨンしんちゃん バカうまっ!B級グルメサバイバル!!

映画クレヨンしんちゃん バカうまっ! B級グルメサバイバル!! 
【あらすじ】B級グルメカーニバルの会場が突如、B級グルメを嫌悪し根絶させようと企む集団・A級グルメ機構に占拠される。かすかべ防衛隊は、B級グルメを救うカギとなる「秘伝のソース」を持って会場へ向かおうとするも、トラブルと敵襲によって森に迷い込んでしまう。5人は時には喧嘩をしつつも一致団結してソースを守り抜き、B級グルメカーニバルへ突撃する。

2013年公開。監督は『TARI TARI』『ソウルイーターノット!』などの橋本昌和。この年以降、橋本昌和氏と高橋渉氏が1年おきに監督を務める体制となる*2。敵キャラとして中村悠一神谷浩史早見沙織など有名声優を起用していることでも話題に。

キャビア、トリュフなどの高級食材の名を冠した敵キャラが次々に襲い掛かってきて、かすかべ防衛隊は内輪揉めで解散の危機に瀕するも、最後は知恵と勇気で敵を蹴散らしてゆく。ラストまで大人の出番は極めて少なく、かすかべ防衛隊の活躍をメインに据えた作品である。

また、敵のボス・グルメッポーイの幼少期の回想なども挿入され、どんなに高級な食材を使った料理でも、マナーなどに雁字がらめになり笑顔を忘れてしまった状態では美味しくない、というテーマ性が浮き上がってくる。最後は「秘伝のソース」で作った焼きそばの美味さが敵すらも感動させ、大団円を向かえるという、クレしん映画史上随一の飯テロ映画である。

クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん

映画クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん
【あらすじ】腰の治療のためマッサージ店に入ったひろしはそこでロボひろしに改造されてしまう。最初は戸惑いつつも次第にロボひろしを受け入れていく野原家だったが、ある日ロボひろしが豹変し暴力的な性格となってしまう。これは、情けない男達をロボットに改造して昔ながらの「強い父親」を復活させようと目論む組織「父ゆれ同盟」によって仕組まれた事だった。父ゆれ同盟の基地に潜入したロボひろしとしんのすけは、そこで捕えられていた「本物」のひろしを発見する。

脚本は『天元突破グレンラガン』『キルラキル』の中島かずき。子ども向け作品でありながら、人間の意識とは何か、力とは何か、家族とは何か、というSF的・哲学的なテーマを描き出した怪作。

映画前半でひろしの記憶をコピーしたロボットの側に感情移入させることで、人間とロボットとの境界線が揺らいでいく様を描き出す。「テセウスの船」というパラドックスでもたとえられるように、生命の本質とは、体を構成するパーツを入れ替えながらも同一のパターンを保ち続けようとする作用に他ならない。それは、組織の構成員が次々に入れ替わってもずっと継続している会社やスポーツチームなどと本質的には何ら変わりなく、そのような物質の入れ替わりの中で保たれ続ける一定のパターンのことを我々は「生命」と呼び、その中で行なわれる電気信号のやり取りのことを「意識」と呼ぶのである。だとするなら、「ひろしの脳内のパターンをコピーしたロボット」と「本物の肉体を持つひろし」との間に、本物か偽物かという区別はつけられないのではないか。このような科学哲学的問題を、子ども向けアニメの文脈に落とし込みながら描く技法は見事という他ない。

と同時に本作は、家族の在り方について極めて批評的な物語を展開していく。「父ゆれ同盟」の根底にあるのは、父親たちのロボット化、つまり力によって家庭を支配し、保守的な家父長制を復活させたいという野望に他ならない。それは結局のところ、家父長制的なものも男尊女卑的な考え方も元を辿れば「男は女よりも力が強い」という単なる生物学的事実から自然発生した「慣習」に過ぎない、という事実を浮き彫りにする。そうした力の不均衡による支配構造の中に愛は生まれない。しかし、そこに本当に愛が芽生えるのだとしたら、それは力で家族を支配するのではなく、その力で家族を守ることによってであろう、という強いメッセージ性が読み取れる。

クレヨンしんちゃん オラの引越し物語 サボテン大襲撃

映画クレヨンしんちゃん オラの引越し物語~サボテン大襲撃~
【あらすじ】メキシコのとある田舎町に生えるサボテンを日本に輸入するため、野原ひろしがメキシコに異動を命じられる。春日部の人々に見送られながら日本を立った野原一家は、メキシコで新しい生活を始める。赴任先の町長は、美味しい実をつけるサボテンを町おこしに利用しようと意気込むが、祭りの日に突然サボテンが動き出し人々を襲い始める。

思わせぶりにタイトルや宣伝で引越しを強調しているが、そういったシーンは序盤であっさり終了し、中盤・後半は野原一家のメキシコでの戦いがメインとなる。植物型の怪物が移動しながら人々を襲う光景は、コミカルでありながらも不気味で印象的。『ゴジラvsビオランテ』『ガメラ2 レギオン襲来』などの怪獣映画を彷彿とさせる。

クレヨンしんちゃん 爆睡!ユメミーワールド大突撃

映画クレヨンしんちゃん 爆睡!ユメミーワールド大突撃
【あらすじ】春日部じゅうの人が同じ悪夢を見る事件が発生。その事件の黒幕である貫庭玉夢彦は、見たい夢を見ることができる世界「ユメミーワールド」を作り上げ、その中で人々の夢から「ユメルギー」を吸い取ることで、娘・サキの見ている悪夢を消し去ろうとしていた。かすかべ防衛隊と野原一家は、サキが悪夢を見るようになったきっかけを知ることとなり、サキを救うために再び夢の中へ潜入してゆく。

しんのすけ達と同い年の女の子・サキを中心とした物語を通して、夢を見ることの大切さ、そして、どんな時でも変わらない母の愛を描く。ゲストキャラとして子どもが登場したクレしん映画はこれまでにもあったが*3しんのすけ達と同い年でしかも女の子というのはこれまでありそうでなかったパターンである。

クレヨンしんちゃん 襲来!!宇宙人シリリ

映画クレヨンしんちゃん 襲来!!宇宙人シリリ
【あらすじ】ナースパディ星からやってきたシリリは、バブバブパワーでひろしとみさえを子ども化してしまう。2人を大人に戻すためにシリリと野原一家は、シリリの父が待つという種子島へと向かう。だが、シリリの父は、全人類を幼児化し再教育を施そうという「人類バブバブ化計画」を進めていた。

2017年公開。本作から野原ひろしの声優が、藤原啓治から森川智之に交代となった。

第19作目『嵐を呼ぶ黄金のスパイ大作戦』や、前作『爆睡!ユメミーワールド大突撃』などと同様、野原一家とゲストキャラの家族関係とを対比的に描く作品。これまで父親の期待に応えるためだけに頑張ってきたシリリが、しんのすけ達との交流を通して少しずつ変わっていく過程を感動的に描くと同時に、子どもの自尊心を傷つける毒親的な教育方針や、怯えている子どもをリアリティショー的に消費する文化への批判的なまなざしを内包する。

クレヨンしんちゃん 爆盛!カンフーボーイズ~拉麺大乱~

映画クレヨンしんちゃん 爆盛!カンフーボーイズ ~拉麺大乱~
【あらすじ】かすかべ防衛隊の5人はチャイナタウンでタマ・ランとその師匠に出会い、伝説のカンフー「ぷにぷに拳」の修行を始める。その頃、ブラックパンダラーメン社長のドン・パンパンは、「やみつき拳」よって人々をラーメン中毒にして金儲けをしようと企む。その企みを阻止するため、タマ・ランとしんのすけは「ぷにぷに拳」を極め、最終奥義を習得するために中国へと向かう。

昔ながらの商店を駆逐していくブラックパンダラーメンと、その副作用によって凶暴化し狂ったようにラーメンに食らいつく人々の描写は、得体の知れない調味料と大量の油によって客をシャブ漬けにする飲食チェーン店と、それに踊らされる現代日本の消費者を痛烈に皮肉っている。

その後、苦労してぷにぷに拳の最終奥義を体得したランだったが、強すぎる正義感と怒りによって我を見失い、些細なルール違反をした人でも容赦無しに制裁を加えていくようになってしまう。これは、災害の後などに不謹慎な行動をとった人を見つけ出して吊るし上げにする行為に代表されるような、現代日本における正義の暴走を表現しているのではないだろうか。そのようなギスギスした社会において、どんな時でもおバカで柔軟な発想を持ったしんのすけのような存在が必要なのだということを、高らかに謳い上げて作品は幕を閉じる。

クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン~失われたひろし~

映画クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン ~失われたひろし~
【あらすじ】オーストラリアに旅行に来た野原一家だったが、仮面族にひろしが誘拐されてしまう。彼らは「金環日食の時に選ばれた花婿を花嫁に捧げればお宝が手に入る」という言い伝えを信じ、ひろしを花婿として祭壇まで連れて行こうとする。残されたみさえ達は、トレジャーハンターのインディ・ジュンコと協力してひろしの奪還を目指す。

2019年公開。本作から野原しんのすけの声優が、矢島晶子から小林由美子に交代となった。

ジャングルでしんのすけ達が奮闘するというクレしん映画にお馴染みのパターン*4を駆使して、ひろしとみさえとの愛を描く。ここ数年のメッセージ性の強い作品とは違い作品構造は単純ではあるものの、ジャングル・水辺・遺跡・岩場などあらゆる舞台で野原一家がハチャメチャに動き回る痛快さがある。

クレヨンしんちゃん 激突! ラクガキングダムとほぼ四人の勇者

映画クレヨンしんちゃん 激突! ラクガキングダムとほぼ四人の勇者 [DVD]
【あらすじ】ラクガキングダムは地上の子ども達の自由なラクガキをエネルギー源として空に浮かんでいたが、現代の子どもがラクガキをしなくなったため墜落の危機に瀕していた。そこでラクガキングダムは春日部に侵攻し、特殊なカメラで大人達を壁の絵に変え、子ども達に無理やりラクガキを描かせようとする。しんのすけは、描いた物を具現化できるミラクルクレヨンを使って、春日部を救うために奮闘する。

ラクガキという題材を通して、子どもを型にはめ自由な発想を奪う現代の教育を批判的に描く作品。例えば駅に描かれたラクガキからキース・へリングのような独創的なアーティストが生まれたように、若い人の自由な発想こそが新しい文化を生み出し、社会に活力を与えてくれるのだということを謳い上げる。

そして、しんのすけと共に戦ったゲストキャラの少年・ユウマが、常にタブレットを持っていたことに象徴されるように、街中からラクガキが消えてもその精神はネット上で生き続けていることも描かれる。今や、pixivやyoutubeニコニコ動画、各種SNSなど、あらゆるネットメディアで誰もが自由に作品を発表できる時代となり、今後はそのような場所こそが芸術の発信源になるということを示唆している。

クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園

映画クレヨンしんちゃん 謎メキ! 花の天カス学園 [DVD]
【あらすじ】天カス学園に体験入学したカスカベ防衛隊の5人だったが、風間君が謎の吸血鬼に襲われてアホ化してしまう。しんのすけ達は生徒会長・阿月チシオと協力して事件の謎を解き明かすも、今度は風間君がスーパーエリート化してしまい、しんのすけの前に立ち塞がる。

2021年公開。学園が舞台のため、ひろしやみさえの出番が非常に少ない分、しんのすけと風間君との友情に焦点が当てられ、さらに学園ミステリーの要素も組み込まれた異色作。

私立天下統一カスカベ学園、略して天カス学園では、オツムンというAIによって生徒の成績や行動が監視され、数値化されている。ランク上位の生徒は様々な特権を得られるが、ランク下位の生徒は学園の隅に追いやられ差別的な待遇を受けるというシステム。それは、例えば中国の芝麻信用のような、様々なネットサービスによって人々のあらゆる行動がランク付けされ、人々がそのランキングに縛られていく様子を分かりやすく表現している。AIによってありとあらゆる行動を監視することが可能になった現代だからこそ起こり得る問題を掘り起こし、教育・社会制度の「食べログ化」に警鐘を鳴らす作品だと言えよう。

クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝

【あらすじ】忍者の里から脱げだしてきた屁祖隠ちよめ・珍蔵の親子は、野原一家を言いくるめて泊めてもらうが、追っ手に襲われてちよめとしんのすけが里へ誘拐されてしまう。忍者の里には、地球内部にあるエネルギー「ニントル」が溢れ出さないように巨大な金塊で栓をした「地球のへそ」と呼ばれる場所があった。そこを代々守る屁祖隠家の子どもとして生活を始めたしんのすけだったが、「地球のへそ」の栓が外れてしまい、地球は滅亡の危機に瀕することとなる。

2022年公開の記念すべき第30作目のクレしん映画。近年のクレしん映画によく見られる、ゲストキャラの親子が抱えている問題と世界規模での危機とが分かち難く結びついており、それらを野原一家が一致団結して解決する、という構図の作品。しんのすけと珍蔵の2人が普段と異なる環境に行く事で初めて家族の大切さや自分の本当の気持ちに向き合い、その中でしんのすけの誕生からこれまでの歩みが回想で流されるなど、30周年の節目に相応しい内容。

まとめ

近年のクレヨンしんちゃん映画についてまず最初に言えることは、初期の頃と比べて映像のクオリティが格段に上がっているということだろう。これは『ドラえもん』などの他の劇場版アニメでも言えることだが、アニメの製作工程のデジタル化が進んだことが大きく影響している。一方で、映画自体の面白さが上がっているかというと、そうとは言い切れない面もあり、単純に作画が良ければ良い映画になるわけではないという所に、アニメ製作の難しさが感じられる。

次に、前回記事でも挙げた、①オカマ、②ラスボス、③ヒロイン、④かすかべ防衛隊、という観点から映画を俯瞰してみよう。参考までに、前回記載した表も再掲する。

初期のころの映画では必ず登場していたオカマキャラだが、第7作目の後はほとんど登場しなくなり、その傾向は現在まで続く。『バカうまっ!B級グルメサバイバル!!』『爆盛!カンフーボーイズ~拉麺大乱~』では例外的にオカマが出てくるが、オカマという単語は一切使われていない。初期の映画をリアルタイムで見ていた層は、「クレしん映画=オカマが出てくる」という印象が強いかもしれないが、実際にはオカマが登場しない作品の方が多数であることが分かる。

敵キャラについては、お馴染みの宇宙人・異世界人から、悪徳企業のトップ、果てはサボテンまで、前回以上に多様化していることが分かる。第30作目『もののけニンジャ珍風伝』に出てきた長老が典型的だが、最初はラスボスだと思われていたのにクライマックス手前でフェードアウトしていくキャラも結構いる。

ヒロインキャラについても、初期によく見られたような、きれいなお姉さんが野原一家と協力して敵を倒すパターンは少なくなり、ヒロインに相当するキャラが居ない映画もある。しんのすけの好みの綺麗で有能なお姉さんよりもむしろ、どこか抜けていて親しみやすいヒロインが増えているように感じる。

かすかべ防衛隊についても、しっかり活躍する映画が多数派であり、主要キャラ全員に満遍なく見せ場があるように脚本を工夫していると考えられる。

最後にクレヨンしんちゃん映画全体を貫くコアの部分について述べておこう。クレしん映画の芯となるもの、それは何と言っても、おバカこそが世界を救うんだという事である。世間では真面目で真剣であることが良い事とされ、ふざけてバカなことをするのは悪い事とされがちである。だが、しんのすけはおバカだからこそ常に明るくマイペースで、柔軟な発想が出来るのだ。そのおバカなパワーを駆使して、大人の痛いところを突き、予想不可能な動きで大人を翻弄する。その痛快さこそが、クレしん映画が世代を超えて愛される最大の理由ではないだろうか。

そこに、野原一家の絆や、かすかべ防衛隊の友情という要素、時には社会的・教育的なメッセージが加えられることで、単なる子ども向けアニメではない、大人が見ても面白く、感動するアニメ映画が次々に生み出された。こうして、かつてPTAなどから「子どもに見せたくないアニメ」とまで言われた作品は、今や、多くの人に愛される国民的アニメ映画シリーズとなったのである。

また、『河童のクゥと夏休み』『カラフル』の原恵一、『ガールズ&パンツァー』『SHIROBAKO』の水島努、『四畳半神話大系』『映像研には手を出すな!』の湯浅政明など、日本を代表する数多くのクリエイターが、『クレヨンしんちゃん』を通して技術を磨き、その後世界に羽ばたいていった。

クレヨンしんちゃん映画が作られて今年でちょうど30年となるが、これからも40年、50年と映画は続いていくだろう。そして、その中で活躍したスタッフが、また別の名作を手掛けていくに違いない。

*1:1999年公開。『ドラえもん のび太の宇宙漂流記』と同時上映された短編映画。将来本当にしずかちゃんと結婚できるのか心配になったのび太が、ドラえもんと一緒にタイムマシンで結婚式の前日へ向かう、というお話。

*2:2020年公開の『激突! ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』のみ京極尚彦監督。

*3:例えば、『ブリブリ王国の秘宝』のスンノケシ王子、『ちょー嵐を呼ぶ 金矛の勇者』マタ・タミ、『嵐を呼ぶ黄金のスパイ大作戦』のレモンなど。

*4:例えば、『ブリブリ王国の秘宝』『嵐を呼ぶジャングル』『バカうまっ!B級グルメサバイバル!!』など。